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飴と鞭と甘いワナ

第12章 4匙め



棚引く紫煙の向こう、風によそぐ前髪とか、タバコを咥える口唇とか。

なかなか来ない電車を待つ間、二宮さんの顔を横目で盗み見する。

" 造形が中性的なんだよな…俺の近くには居ないタイプ "
そんな勝手な分析してみたり。

それでも続く沈黙に耐え兼ねて口を開いたのは俺。

「今日は何のお招き?」

"…まさかバースデーとか?"
ワザと茶化して

「だったら俺 手ぶらだよ」

空の手を振れば困った様に笑い返すだけの二宮さんに俺も口を噤むしかない。

それから二人して黙ったまま、1分早く到着した電車に乗った。

*

まもなく次の駅だと、忘れ物がないようにと注意を勧告する車内放送に紛れて

「俺…婚約破棄してきたんです」

ギョッとして。

何の聞き間違えかと二宮さんを見ると、俺を見つめる物言いたげな眼差しとぶつかった。

"何?"
口を開くより前に電車がゆっくり停まり、プシュッとドアが左右に開く。

「降りましょう」

歩くのが不自由な俺を庇うみたいに背中に添えられた二宮さんの手。

俺の上衣をギュッと握るのが気になってしようがなかった。

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