飴と鞭と甘いワナ
第12章 4匙め
「…エレベーターないけど、2階だから大丈夫かな」
独り言みたいに呟いて、斜め後ろにいる相葉さんを振り返ると
てっきりそっぽを向いていると思ってた視線がばっちりとぶつかった
「…っ」
先にそれをそらしたのは相葉さん
赤くなった顔に胸が苦しくなる
……ねぇ、どうしてそんな顔するの?
有り得ないのに “もしかしたら“ なんて変な期待持っちゃいそうだよ
「相葉さん、かいだ…」
「問題ないから」
“階段平気?“ と聞こうとして、すぐに言葉を遮られる
冷たいような、低い声だけど
それが彼の照れ隠しだと言う事は、もう知ってる
だから
「じゃ、行きましょ」
相葉さんのペースに合わせて
だけどそれに気付かれないように、ゆっくりめに階段を1歩1歩上がって行った
「…どうぞ」
階段から離れた一番奥
外観に似合わない最新の扉の鍵を開けて、相葉さんを促した
「…おじゃま、します」
松葉杖を器用に使って、履いていた右足のスニーカーを脱いでいく
「器用に脱ぐんですね」
「慣れよ、慣れ」
そう言った相葉さんが、ようやく笑ってくれた