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虞犯少年

第19章 生まれた意味




友達なんかいらない。家族もいらない。

嵐がいればいい。

嵐さえいてくれればそれでいい。


私の価値観はガラリと変わっていった。

ちょっと前までじゃ考えられないくらい嵐に染まっていく自分が恐い反面、それが快感でもあった。

私の世界の中心に存在するのは嵐。彼がいる。

今の私にはその事実だけで十分すぎて、嵐の温もりに包まれてる時が安らぎにも思えるくらい。傷ついた心ごと嵐は私の全てを愛してくれる。優しく撫でる指先が頬に触れて、その手に自分の手を重ねた。



「嵐はいなくならないよね?
私から離れていかないよね?」


「あぁ、当たり前だろ。
俺が簡単にお前を手放す訳ねぇ」



繋いだ手を強く握って、その言葉に何度も深く安堵する自分が情けなくなる。何度聞いたか分からない束縛にも似た言葉に嵐は決まって同じ言葉をくれるのに、その時は安心してもすぐまた不安になる。こんな自分が嫌いになって嵐もいつか愛想をつかして消えていくんじゃないかって思うほど、もう元には戻れないことを知る。


左手の薬指にある冷たさが今は温かい。お揃いの指輪も愛も私には重かった。いらなかった。なのに今はその重さにひどく安心するなんて。気持ち一つでこんなにも世界は変わっていく。




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