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第2章 SO~研究員×小人~逆襲の小人編~
なんて言おう。
なんて言って引き止めよう。
智くんに包まれてそんな事を思っていると、智くんが口を開いた。
智「あ~、あんな所に」
俺の背中越しにスマホを見付けたようだった。
智「とっくにバッテリー切れてるんだろな…」
ちょっとごめんねと、俺の背から腕を外しかけた。
智「え...?」
立ち上がり、もう少しで腕が外される。
その腕を、俺はぎゅっと掴んだんだ。
智「...そんなに痛いの?」
咄嗟だった。
力の加減も出来ずに、智くんの腕を掴んだ。
翔「痛いよ」
智「胸が痛いの?」
翔「うん。痛くて、苦しい…」
スマホを取りに行かなかった。
再び俺の隣に座ると、またぽんぽんと背を撫でながら、俺を包んだ。
智「泣きそうじゃん」
俺はそんなに情けない顔をしているのか。
智「救急病院どこだっけな」
俺を包む智くんをぎゅっと掴む。
掴むとその手を背に回し、智くんの柔らかい抱き締め方よりも数倍力を込めて抱き締め返した。
智「お...」
俺の力強さに驚いて、智くんはふふっと笑う。
そして、ヨシヨシとぽんぽんするんだ。
翔「勝手に出て行かないでよ」
智「へ」
翔「俺、何も言ってないのに」
智「...見送ってくれたじゃんか(笑)」
智くんの首に顔を埋め、モゾモゾと話す。
そんな俺を、智くんは肩を揺らして笑っている。
智「仮病かぁ?」
翔「本当に痛いよ」
智「嘘つけ...」
こんなに力の強い病人なんて居ないよと、まだ笑っている。
翔「無かった事にしようとしてるの?」
智「へ?」
翔「この数日を、幻想だと思う事にしたのかよ」
俺の手が震える。
智くんをぎゅっと掴んだこの手が、ワナワナと震えてくる。
智「翔、くん?」
翔「俺は思えない」
智「え、どうしたんだよ」
翔「無かった事になんて出来ない。忘れる事なんて、出来ないよ」
引き止め方を知らない俺は、優しい台詞なんて思い浮かばない。
気の利いた台詞で、智くんの気を引くなんて到底無理な話なんだ。
翔「これが現実じゃなきゃ、何だって言うんだよ…」
確かに触れるその温もり。
これは、夢のように消えてしまう幻想なんかじゃないんだ。