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じんちょうげの花咲く頃

第6章 エピローグ ①



「じゃあ、おばあちゃん、そろそろ行くね?」



八月もあと僅かというある日、僕は東京へと戻るべく、金沢駅へと向かうタクシーの中にいた。



「うん。気ぃ付けて帰らな。」


「ありがと。」


め「零ちゃん、またね?」


「うん。おばあちゃんをよろしく。めぐむちゃん?」


め「任せて?」



めぐむちゃんは、タンクトップから覗く細い腕で力瘤を作って見せた。



め「あ、でも私、来週には金沢に戻らなきゃ、だ。」



が、すぐに舌をぺろっと出しておどけてみせた。



この春から僕は東京の大学に通い、叔父さんの家に住まわせてもらっていて、



後期の授業まで、まだ、日は随分とあったが、アルバイトをしている関係上、長居をするわけにもいかなかった。



め「下宿代なんて別にいいのに。家はそんなにお金に困ってないんだから。」



僕より一つ年上のめぐむちゃんはといえば、去年から金沢の大学に通い始め、長い休みのたびにおばあちゃんの様子を見にここに訪れてくれていた。



「ただなんて、そんなわけにいかないよ?」



そう叔父さんたちにも言われてるけど、



僕の場合、社会勉強も兼ねてるからと、無理に下宿代を二人に貰ってもらっていた。



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