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じんちょうげの花咲く頃

第3章 返歌



「ねえ、父さん。」


「ん?」


「また、帰ってくるでしょ?」


「どうしようかな…?」


笑いながら立ち上がり、背を向ける。



「ずっと日本にいられないならせめて母さんの命日ぐらい帰ってきてよ?」


「そうだな…」



何かを悟ったシロが、クゥ、と鼻を鳴らす。



海を臨みながら、父さんは大きく伸びをして見せた。


「成長してないのは俺だけ…か。」


「え?」


「子供のお前がこんな立派に成長してんのに、親の俺が全然成長してないな、と思って?」


「え…と、それは…」


「…言っとくけど、身長のことじゃないからな?」


「…分かってるよ。」


「あ、お前、今、笑ったろ?」


「笑ってない。」



緩む口許を隠すみたいに顔をそらす。



「…やっぱ、似てるな?お前。」


「似てる、って?」


「お母さんに、だよ?笑った顔とか。」


「そうなんだ?」


「言われたことないか?」


「あ…でも、叔母さんがそんなこと言ってたかも?」


「そ…か。」



ズボンのポケットに手をいれ、



父さんはゆっくり歩き出した。



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