テキストサイズ

じんちょうげの花咲く頃

第3章 返歌



「シロ、ごめんね?ありがと。」



スケッチブックを閉じかけた時、あることが頭を過る。



祭壇で微笑む母さんの写真。



と、



僕と顔がそっくりな父さん。



ある考えが頭の中を占め始める。



確か、母さんの日記の中で、上手く描けなかった自分を悔しがる幼い僕の話が綴られていた。



あの頃より、少しだけ上手くなったはずの僕ならば、と、



記憶の糸を手繰りよせながら、



若かりし頃の二人の姿を思い描きながら鉛筆を走らせた。








「そう言えば…」



空港へと向かうタクシーに乗り込む直前、



思い出したように、父さんは僕に話してくれた。



母さんは、僕の描いた絵の中でしかお嫁さんになれなかった、と言ってたけど、実は…



「したんだよ?結婚式。」


「ええーっ!?そうだったの?」



初めてデートと称して二人してふらり、と立ちよった名前も知らない町の、古い小さな教会。



当時、その教会の神父さまに協力してもらって、



教会を取り囲むように咲いていた白い百合の花を花束にして。





指環も、祝福してくれる人もいなかったけど、



人生の中で一番幸せな瞬間だったと、



父さんは話してくれた。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ