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じんちょうげの花咲く頃

第6章 エピローグ ①



智「…うん。」


「即答、だね?」



再び僕の隣に腰かけた。



智「正直に言うと、俺はお前に会うのが怖かった。」



俯き鼻を啜る。



智「あの日、お前に声をかけられた日、そうだ、って、俺がお前の父親だ、って……口にすることが怖かった。」



こんなに泣く人だったんだ、って思った。



智「まさか、あんなところでお前に出会す、なんて…」



俯き、僕の手を握る。



智「お前の顔なんか見たくもない、って、追い返されても仕方なかったんだ……。なのに…。」



そしてとうとう、声を上げ泣き崩れてしまった。



「そんなこと…するわけないよ。」



細く節張った父さんの手を握り返した。



「…自分の父親なのに。」


智「れ……ぃ」



母さんが、



命懸けで呼び戻してくれたのに…。



「だから泣かないでよ?」


智「ダメだなあ。年食うと涙腺が緩くなっちまって…。」


「年のせいじゃないでしょ?父さんが泣き虫なのは昔からだって聞いたけど?」



父さんの、啜り泣く声がピタリと止む。



智「…誰から聞いた?」


「え……(汗)」


「もしかして……」




一瞬にして父さんの回りの空気が冷気を帯びてゆく。



智「零、悪いけどちょっと用事を思い出した。」



すぐ戻るから、と、



冷たい空気を纏ったまま母屋へと歩いていった。



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