続・あなたの色に染められて
第13章 空と白球とキミと
『空が蒼いね。』
『球場デビューにはもってこいの日だな。』
恵介の首も座り生活のリズムも整い始めた10月の中頃
本日は秋季大会の決勝戦。
相手は今年になって急激に強くなった我がチームと同じ高校のOBが集まって作られたチーム
『久しぶりですね。』
相手チームはうちと同じく決勝戦に辿り着くまでコールドゲームで上り詰めた実力派
ずっと優勝し続けてる我がチームがこの秋に負けるなんぞはあり得ないわけで
『恵介の観戦デビューですから絶対に勝ってくださいね!』
『当たり前だっつうの。な、恵介。』
京介さんは恵介を車のベビーシートから抱き上げるとおでこにそっとキスをした。
*
『失礼します!』
グランドに足を踏み入れる瞬間 いつものように帽子を取りピシッと頭を下げると
『ちょっと行ってくる。』
『はい。』
京介さんはまだ誰も練習をしていないグラウンドの中央に恵介を抱いたまま歩み始めた。
…やっと連れて来れたな
その後ろ姿をたくさんの想いを込めながら見守っていると
『璃子ちゃん。』
『あっ長谷川さん!お久しぶりです。』
長谷川さんもこの光景を眺めながら私の横に立った。
『アイツらしいな。律儀に野球の神様にご挨拶ってわけか。』
『…はぃ。』
京介さんはマウンドに立つと帽子を取って深く一礼し 恵介を空高くに抱き上げた。
『キャッ!キャッ!キャッ!』
すると恵介はベンチまで聞こえるほどの大きな声で笑い出した。
『さすが野球バカの息子だねぇ。』
『ですね。』
その光景を目にした私はスマホを取り出し自然にシャッターを切った。
*
野球だけは誰にも負けたくないと思った。
でもコイツになら抜かされてもいいと思った。
だってコイツ、マウンドに向かい始めたら饒舌に喋りだした。
『あう…あぅぅ…あぃ…』
でも、マウンドに立つと今度はピタリと黙りこみ
『息子の恵介です。』
野球の神様に頭を下げると
『あぃ…』
何にも分かってないくせに俺と一緒に挨拶しやがった。
『恵介、広いだろ。』
俺は腕をグンと伸ばし恵介を抱き上げる
真っ青な空に満面笑み
『キャッ!キャッ!キャッ!』
きっとコイツにはわかるんだ。ここがどれだけ素晴らしい場所か
『俺を抜かせよ。』
俺は被っていた帽子を恵介に被せマウンドを降りた。