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続・あなたの色に染められて

第13章 空と白球とキミと


『頑張れ。』

今までこんな気持ちでグランドを眺めたことなんてなかった。

『アンタが緊張してどうすんのよ。』

『だって…』

京介さんのユニホームを着て、陽菜と祈るように両手を組んで恵介の初打席を見守っていた。

そんな私とは対象的にベンチから見守る京介さんは

『恵介ー!おもいっきり振れ!』

絶えず声を掛けていた。

ケンタくんから貰ったお下がりの大きなユニホームにヘルメット。そして小さな手にはカラーバットを握り締め打席に立つ。

『頑張れ。』

目の前にいるピッチャーの直也さんをグッと見据えて一丁前にピシッと構えたところに 緩いボールをホイッと投げられる。

第1球…

…空振り

『恵介!いいぞいいぞ!』

ベンチにいる京介さんは大きな声で声を掛ける。

その声に「うん」と首を縦に振りもう一度ピッチャーを見据える。

『頑張れ。』

初打席をいい形にしてあげたいと思うのは野球をこよなく愛するダンナさまに染まった証

第2球…

…空振り

球場全体から溜め息が漏れるのと同時に声援もグッと増える。

…親子なんだな

京介さんと同じ、左足でリズムを取りながら打席に立ってる。

第3球…

…コンっ!

打った!

『陽菜!お兄ちゃん打ったよ!』

…いや、当てた。

『恵介走れ!』

打ってしまえばこっちのもの。

恵介は一心不乱にダイヤモンドを駆け巡る。

本当の試合じゃあり得ないけど今日は球納め。

『恵介、回れ回れ!』

直也さんのグローブに納まったままのボールはホームに帰ってくることもなく拍手喝采のなか

『ナイスホームラン!』

初打席はもちろんランニングホームラン。

ホームで京介さんに空高く抱き上げられた恵介はこの瞬間にきっと野球人になったのだろう。

『まったく、人にビデオ撮らせて泣いてんじゃないわよ。』

『だって…だって…』

この球場で京介さんに会ってから私はたくさんの涙を流した。

毎回幸せな涙じゃなかったけど、この幸せを掴むために必要な涙だったんだと思う。

『恵くん凄かったねぇ!』

ベンチから得意気な顔して出てきた恵介を抱き締める。

『オレの子だからな。』

『そうですね。』

真っ青な空の下、大切な家族に囲まれる私

私はこれからも野球をこよなく愛するダンナさまと歩んでいく。

幸せな笑顔色に染まりながら…

★END★

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