続・あなたの色に染められて
第13章 空と白球とキミと
『あっ!ケンタ兄ちゃんだ!』
年の瀬の 豚汁の香りが漂っている寒空の下
『恵くん!』
いつの間にか璃子の背を抜かしたケンタを見つけると恵介は走り出した。
『もう…』
『いいよ、走らせとけ。』
『でも…』
『いいから。陽菜も少し歩こうか。』
恵介はこの夏3歳になり去年の春お兄ちゃんになった。
我が家に仲間入りしたお姫様は真っ白な肌に茶色がかった髪、目はクリッと真ん丸で天使のよう。
『パパ。…っコ。』
そんな姫に俺は甘い。
『もう抱っこかよ。』
璃子の言葉を借りるならメロメロってところだろう。
『甘いなぁ京介さんは。』
あぁそうでよ。俺はおまえにそっくりな姫にはメチャメチャ甘いんだ。
『じゃ、京介さんよろしくお願いします。』
エプロンを握り柔らかな笑顔で手を振る璃子に一番甘いんだけど
『おぅ!』
おまえは気付いてないんだろうな。
『恵介ー!キャッチボールするかぁ?』
『しゅるー!』
球納め恒例の試合が始まる前の人も疎らなグラウンド
アイツにとっちゃまだまだ大きいカラーボールを見よう見まねで振りかぶりヘナヘナボールを投げる息子に目を細めるオレ
たった2m前ぐらいしか離れていない距離、俺の手元のグローブにまっすぐに納まることはない。
でも、投げ終わった後の満足げな表情を目にすると
『ナイスボール!』
つい、声をかけてしまう。
『お父しゃんも投げて!』
『ハイハイ。』
今年の誕生日に買ってやったオモチャみたいなグローブを一丁前に胸に構えて
『ほれ。』
胸のど真ん中に投げてやる。
『おぉ!上手上手。』
誉めて伸ばす。これが俺の教育方針。
『もう一回!』
まだまだ野球を教えられるような年齢ではないけど センスは抜群な息子に野球の楽しさを教える。
…パチパチパチパチ
隣でニコニコしながら眺めていた陽菜はボールを投げる度に満面の笑みで手を叩く。
『陽菜もやる?』
『うん!』
間違いなく言えることがある。
俺の大切な場所で息子と白球を追いかけて、娘の笑顔に癒されて
『京介さーん!豚汁出来ましたよー!』
俺のユニホームを着てピョンピョン跳び跳ねながら手を振る可愛くて仕方のない愛しいかみさん。
『今行くー!』
俺は誰に何と言われようが
『よし、ママのところまで競争だ。』
世界一の幸せ者だ。