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続・あなたの色に染められて

第2章 幼馴染み


『璃子~こっちこっち!』

翌日の日曜日 午後からの見学の予約が入っていなかったので 一人電車に揺られて京介さんの待つ球場に向かった。

球場に到着するとスタンドから美紀が私を見つけて手を振って

『遅いって。』

『仕事だったの!』

屋根がついてる一区画を陣取って 試合よりも世間話に花を咲かせる奥さま軍団。

『相変わらず忙しそうね。』

『ホント参っちゃいますよ。』

美紀の膝の上でニコニコと微笑むまーくんに

『こんにちわ まーくん。』

視線を下ろせば私に両手をまっすぐに伸ばして

『だっこ。』

『私の所に来てくれるの?』

抱き寄せれば胸にピタリと頬を寄せて

『可愛いね。』

『家じゃ怪獣よ?』

ここは私の心のオアシス

仕事を忘れて私が私でいられる数少ない場所

お姉さま方の他愛もない話に耳を傾けたり 職場じゃ言えない京介さんの愚痴を聞いてもらったりして

『あぁ沙希さん…確かに3人で歩いてる姿は家族に見えたわね。』

『やっぱり…。』

こんな私の心のウジウジもここでしか話せない。

『でも 悪い人には見えなかったよ?』

『それはわかってますけど…。距離が近いって言うか…。』

『まぁ 妙にサバサバしてたけど幼馴染みって言うより…ありゃ女の目だったよね。』

『ですよね?』

まーくんをあやしながら お姉さま方に最近の悩みを打ち明けて

『でもさ 純粋に子供に野球教えて欲しいだけかもよ?』

『そうかなぁ。』

『京介もあの子に楽しそうに野球教えてたもん。』

ただこうやって話を聞いてもらうだけでも心は随分と軽くなるもの。

『ほら 京介さんの番だよ。』

バットを握りしめながら打席に向かう彼の姿はいつ見ても私の心をときめかせる。

『京介さーん 頑張って~!』

バッターボックスに立った彼に声援を贈ると バットを持った左手をスッと高くあげて応えてくれて

スコアボードは2―2の同点。ここで塁に出ればチャンスは一気に広がる。

『打つかな?』

『璃子が来たから打つでしょ。』

練習試合だけど久しぶりの球場だから なんだかドキドキしちゃって

『まーくんも一緒に頑張れーって。』

まーくんを抱きしめながら 精一杯祈ると


カキーン!


『まーくん見て!打ったよ打った!』

さっきまでの私はどこへやら

二塁ベースの彼に大きく手を振った。

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