続・あなたの色に染められて
第6章 すれ違い
『はい どうぞ。』
『おっ 昨日のハンバーグがメンチカツになってる!』
だいぶ色付き始めた銀杏を眺めながら中庭のベンチでお弁当を広げる10月の中頃
『鮭と明太子どっちにします?』
『明太子。』
私たちはいつものように二人だけでのんびりとお昼休みを過ごす。
『Yシャツ欲しいんだけど。』
『そうだ!来週出張ですもんね。』
大きなおにぎりを頬張りながら温かいお茶をすすって
『おまえ今日早く終わる?』
『今日はちょっと無理かなぁ。』
『じゃあ明日は?』
『明日も厳しいですね。京介さんが一人で行ってくれば…。』
甘めに仕上げた卵焼きをパクリと大きな口に放り込むとジロリと私を睨みつけ
『ダメ。おまえと行くの。』
『ハイハイ じゃあ明後日は予定空けときますから。』
フンと鼻を鳴らしながら鮭おにぎりを頬張る京介さん。
Yシャツぐらい一人で買いに行けばいいのにと思うのが本音だけど あの海での一件以来 私と少しでも一緒に過ごせるようにと気遣ってくれるようになった。
近所のスーパーも土日の野球も私を置いて行くこともだいぶ減ったし
『帰りに旨いもんでも食おうか。』
『いいですね~!』
デートっていうのかな。二人の時間を作ってくれるようになった。
でも…
『また甘えてんの?』
『うるせえなぁ。』
舌打ちする京介さんの隣のベンチに腰を下ろして
『今飯食ってんだからあっち行けよ。』
『いいじゃない?こんなに天気がいいんだから日向ぼっこぐらいさせてくれたって。』
相変わらずマイペースな沙希さんに京介さんは申し訳なさそうに微笑む。
でも こんなことにも慣れてきていた。だって毎日毎日この光景は繰り広げられる。
だから私は
『沙希さんはブラックでいいですか?』
隣にある自販機で三人分のコーヒーを買って
『いつもありがとう。』
『っていうか あっち行けよ。』
私はお弁当を片付けて事務所に戻る用意をする。
『先に戻りますね。』
スッと立ち上がって京介さんに手を振ると
『俺も行く。午後の会議の資料作んなきゃ。』
私だけにしか見えないように舌をペロッと出しながら席を立つと 沙希さんは追いかけるように言葉を放った。
『いいなぁ 璃子ちゃんは山梨に出張で。』
…は?私が出張?
振り向くとわざとらしく唇を尖らせる沙希さんがいた。