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続・あなたの色に染められて

第6章 すれ違い


山梨へと向かう真っ暗な高速道路を走っていると 助手席の窓にキミの綺麗な横顔が映った。

出発してすぐに立ち寄ったコンビニでボクは京介さんに連絡を入れていた。

面倒くさそうな彼の声はボクが発した言葉で声色を変え声を荒げた。

きっと今ごろやきもきしてることだろう。

でもそれは自業自得 ずっと信じていた彼女を裏切ったんだから

『寒くない?』

『うん。』

昼間なら紅葉が綺麗に色付いてるのが見えるだろう11月の山々を眺めたまま キミは膝に抱えているバックをギュッと抱きしめた。

『一応 京介さんに連絡入れておいたから。』

車に乗ってからは涙も見せず暗闇に視線を向ける脱け殻のキミにやっと伝えると

カーステレオから流れるラジオに欠き消されてしまいそうなほど小さな声で返事をした。

彼の名前をボクが口にしてしまったからか キミは鼻をグスンとすすり顔を両手で覆った。

噂でしか耳にしたことがないが キミは結婚する前から涙を流していたそうだね。

彼の振る舞いを見てればわかる キミはずっとずっと我慢してきたんだろう。

そして 少しずつ強くなっていってしまったんだ。

見て見ぬふりも聞き流す術も自己防衛のために気付かないうちに身に付けて

中庭で寂しそうに夕陽を眺めるキミを何度見てきただろう。

いつか そんな寂しそうなキミに聞いたことがあったよね

…京介さんのどこが好きなの?って

キミはあんなに寂しそうな顔をしてたのに悩むことなく頬を夕陽色に染めながら

…全部

と言葉尻に音符を付け満面の笑みを浮かべて教えてくれたね。

そしてこうも言ったね

…京介さんは私のすべてなの

と その柔らかな微笑みにボクの鼓動が跳ねたのを思い出す

でも 今キミはそのすべてを賭けた愛しい人から逃げ出した。

ハッキリと彼の口から聞いた訳じゃないけど もう限界だったんだろう

助手席で涙を流すキミを今すぐにでも抱きしめたい

そして少しでも心を落ち着かせてやりたかった。

…ボクなら泣かせないのにな

そんなボクの胸のうちを知らないキミは バックの中から電源を落としたスマホを取り出すとスマホケースをパカパカと何度か開いて

『これ…あげる。』

何か踏ん切ったようにボクのバックにストンと落とした。

この坂を上ればうちのブドウ畑が広がる。

キミと二人だけの時間が始まるんだ。

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