
続・あなたの色に染められて
第6章 すれ違い
しつこいぐらいに鳴り響くスマホを手にしたらそこには
海外営業部 風間
の文字
沙希の胸ぐらから手を離し 耳に当てると聴こえてきたのはいつものあの調子のいい風間の声じゃなかった。
『まだお取り込み中ですか?』
端から俺に喧嘩を吹っ掛けてきてるかのような物言いにスマホを持つ手に力が入る。
でも 相手は俺の部下で璃子と席を並べるワイナリーの御曹司
『お忙しそうなので手短にお話しします。』
今朝早く用意しておいた山梨に持参する酒とオリジナルの枡に不備があったのか…
それぐらい風間から電話が入るなんてないこと
っていうか いつもなら璃子が俺に連絡してくれてたから変に構えてしまった。
『何か足りなかった?』
『いえ一応報告した方がいいと思いまして。』
何を律儀に報告しなければいけないのかと首を傾げれば
『璃子ちゃんをいただきますから。』
『は?おまえ…。』
発した言葉は俺の首をさらに傾げさせ
『璃子ちゃんがこれ以上傷付くとこ見てられないんで。』
その言葉が本気なんだと確信した。
『ふざけるな!!』
切られる瞬間に叫んだけどきっとその言葉は届いていない。
その光景を間近で見ていた沙希を置き去り俺は事務所に走った。
『どうしたんですか?』
勢い良く事務所のドアを開けるとまだ残っている同僚が目を丸くして俺を見上げた。
『璃子は?』
息を整えながら事務所を見渡すと
『あれ?会いませんでした?風間くんと京介さんを待ち伏せするんだってさっき駐車場に向かいましたけど。』
『…ウソ。』
そう声を発したのは俺の後ろにいた沙希
風間からの電話の意味がなんとなくわかった。
『そか。』
俺は自分のデスクに戻りパソコンを立ち上げる。
多分もう手遅れだ。
『行かないの?』
沙希は隣の椅子を寄せて俺に小声で何やってるんだと急かすけど
『明日の用意しねぇと。』
俺は自分の頭を冷やすようにわざと冷静を装ってキーボードを弾く。
こんな時に俺は何やってるんだろう
この世で一番大切な人が他の男に連れて行かれたっていうのに
『沙希 これコピーしてきて。』
『バカ!』
奪うように紙を俺の手から引き抜くとカツカツと音を立てながらコピー機の前に立つ
何もしないんじゃないんだ…
今朝のぎこちない笑顔の璃子が瞼の裏に浮かんで何も出来ないんだ。
