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Dioic

第1章 異形


台風が、きた。

異形のぼくを見て、笑みを浮かべる。
雨が体を痛いほど打ち付けて離れない。
雷がごろごろと足音を立てながら周囲を囲む。

台風が笑いながらぼくを巻き込んだ。


異形のぼくは簡単に引っかかって引きずり回されて地上から離れる。

手を、手を離さないで。

異形のぼくの言葉は大地には届かない。

あっちこっちいびつな体は簡単に歪み、ミシミシと音を立てながら歪む。

ぐにゃりぐにゃりと、ちぎれる。


ちぎれるのは嫌いじゃない。
ぼくがぼくじゃなくなるから。
誰かぼくを壊して。

風が体を持ち上げて、台風にぐるぐる回される。

壊れた先に、境界線がある。
超えたらぼくがわたしになり、ぼくは女になる。

悪いことじゃない。
女は体を蝕んでいくが、歪むことはない。
綺麗にしなやかに艶やかに煌びやかに男を誘い、受け入れる。

産ぶ声をあげたら、もうぼくはいない。

でも、ぼくは、



女が卑しく笑う。

いいじゃない。あなたもその方が、気持ちが良いわよ。

綺麗になれるわよ。
好きな人と一緒にいることだってできるわよ。

わたしになれたら、汚れても汚れても汚れても


わたしでいられるのよ。



ぼくは、



わたしになったら、いいじゃない。



ぼくは、



ぼくは、




おとこ?おんな?



おとこがいい。



わたしになったらよがってよがってきもちよくなれるわよ。




おとこがいい。




わたしはあなたがどんなに淫乱な女になっても嫌いにならないわよ。



おとこがいいんだ。

おんなになったらぼくは、純じゃない。



ぼくは、純がいい。








台風がきた。

窓の外はどんよりと泥のような色をしていて、ガラスに今か今かと楽器のような音を立てて粒をぶつける。

ぼくも、台風がこわいのか。

木々が斜めになって風に負けて揺れる。


はやく、台風消えないかな。

窓辺はうるさいので、本を閉じて階段を上がった。

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