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キラキラ

第31章 イチオクノ愛


そのまま、がむしゃらに走った。
道行く人が、犬だ!とか、うわっびっくりした!とか、さまざまな反応をしてくれるのを聞きながら、とにかく身を隠す場所を求めて走った。


誰かに、面白半分にでもつかまったらおしまいだ……!


土地勘ゼロなりに、時々景色を確認してから、人が入ってこれないようなビルとビルの隙間を見つけて、とりあえず飛び込んだ。


はー、はー、と息を整えながら、へたりこむ。


疲れた……。
つーか、臭いな……ここ。

飛び込む場所間違えたかな。

俺は、うんざりと、ため息をついた。


室外機がおいてあるだけのここは、生暖かい空気がさわさわふいていて、排出してくる空気のせいか、ひどく澱んだ臭いがした。

オフィス街のまわりで営業している飲食店、といったところだろうか。


……どこだろうな、ここは。


隙間から見える外。

ビルの感じとか、駆け抜けたアスファルトとか、並走する幹線道路っぽい感じとかから想像するに、まだ自分は都内にいるような気がするけれど。
詳しい場所なんてわからなかった。


さあ……どうしよう。
とりあえず、俺の最終目標は、にのちゃんのもとに帰ることだ。
それには、にのちゃんと会える場所まで行くこと。
それには……

それには……?


考えてるうちに絶望しか感じなくなってきた。


常に前向きだ、と言ってもらえる俺のキャラクターを裏切っちゃいけないと、頑張ってきてる俺でも、さすがに気持ちが切れそうだ。


だって、ここがどこかも分からない。
なのに、犬の俺には、移動手段が自分の足しかない。

しかもリーチが極端に短くなってる。
すなわち、運動量が半端じゃなくかかる。

それに腹も減って、喉も乾いてきた。


……バカじゃねーの、この展開。

なんなのこれ……なんなんだよ?
俺なんかした?

あいつは誰?
俺そっくりのあいつは何がしたいの?


俺……のたれ死んじゃうよ。


にの。
俺、どうしよう?


ゆらりと目の前の景色が歪んだ。


くそっ……いい大人が泣くもんか。
泣かねーぞ。
……泣かねーしっ!!

ブルブルブルっと首をふり、泣き虫の虫を追い払った。

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