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キラキラ

第31章 イチオクノ愛


とりあえず分かるとこまでさまよってみよう。

俺は、気を取り直し、大きく深呼吸した。


大丈夫。俺はできる。
絶対にのちゃんのとこに行く。
負けないぞ!


心にちかって。
ビルの影からそっと出て、道の端を歩き始めた。




思うにこの時代の人たちは、とても無関心だな。

気配をなるべく消しながら歩いてる俺に、気づく人は意外と少ない。
だって、みんな歩きながらスマホいじってるか、イヤホンつっこんで、なんか聞きながら、気もそぞろに歩いてるんだもん。
気がついても、二度見して、あれ?くらい。

子供とかに見つかったら一発アウトだろうけど。
オフィス街だから、さすがに子供はいないというのは幸いだった。

俺はビルの名前や、看板、信号のとこにある交差点の名前とか、見て歩きながら、自分の記憶にひっかかるものを必死で探った。


結果。


……意外とにのちゃんから離れてないかも!!


都内なのは確かで。
しかも、さっきの仕事場からもそれほど離れてはいないようだ。

俺は色めき立ちながら、さらに知ってる場所を求めて歩き続けた。



ところが。
ふと、明るかった空がだんだん曇り空にかわっていってることに、気づいた。


やな予感……。


無駄に鼻のきく犬の俺は、雨の匂いを感じとる。
湿気を増してきた空気に、アスファルトの不快な臭いが増す。

そうこうしてるうちに、ポツリと鼻の頭に大粒の雫があたり。

ヤバい……と空を見上げた顔にも、ぽた、ぽた、ぽた、と雨がおちてきた。


やめてよ……こんなドラマみたいな展開。
笑えないって……


急ぎ足で先を急ぐ俺を嘲笑うかのように、それからすぐ、勢いを増した雨は、歩道を瞬く間に水浸しにした。


俺は、それでもなんとか歩き続けた。
お風呂みたいじゃん。
シャワーだと思えばなんてことない。

……でも、雨にうたれるのって想像以上に、体温と体力を奪うんだよな。

空腹も手伝って、俺は雨がやむまで一休みすることにした。
さっきみたいな飲食店の横手。
積み上がった段ボールの隙間に身を突っ込んだら、ちょうどいい雨避けになった。

ちょっと口を開けたら雨水が入ってきて、口のなかが少しだけ潤った。
でもそんなんじゃ全然足りない。


腹へった……。
って、俺、なんかずっと腹へってるような気がする。
野良猫がゴミ漁るの、なんか分かるかも……

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