
キラキラ
第31章 イチオクノ愛
それからしばらくの間、身動きのとれないままその場に寝そべっていた。
雨はやむ気配はなく、降り続く。
俺は、ぼんやりと灰色の空を見上げた。
いつしか、薄暗くなってきていて、夜の足音がひたひた忍び寄ってきている。
……眠たいな……
こんな状況で寝たらヤバいとは頭では分かってるけれど、さすがに体力的にも精神的にも、限界が来ていた俺は……閉じる瞼に抗えそうになかった。
投げ出した前足に顎をのせて。
はぁー……と、深く息を吐いた。
……にの……会いたい。
今日の朝までは、一緒だったのに。
なんだか遠い昔のことのようだ。
脳裏に浮かぶのは、にのの優しい微笑み。
いたずらっぽい満面の笑顔。
そして、俺の腕の中で、恥ずかしげに俯く仕草。
……なにこれ。
俺は、ハッと我にかえった。
これが所謂、走馬灯?
俺、死ぬの?
やっぱりドッペルゲンガー見たら死んじゃうって言い伝えは、本当だったのかな?
頭のどこかでは突っ込みを入れることができる自分がいるのだけど。
冷静に自分の置かれた立場を認識する自分もいて。
駄目かも……今度こそ駄目かも、と。
弱気の自分が騒ぎ出す。
だって、一旦寝そべってしまったものだから、もう立ち上がれる気がしなくて。
お腹すきすぎて動けないし。
歩き続けたから、足も棒みたいだし。
鳴いたら届けばいいのに。
俺の声が届けばいいのに。
「クゥ……」
にの。
「クゥン……」
にの。
「クゥ」
にのちゃん。
お願い……俺を見つけてよ。
その丸っこい手に抱っこされてーな
。
ソーセージ……食いたいな。
寒いなぁ……
……眠たいなぁ……
俺は、波のように襲ってくる気持ちのいい感覚に、ゆっくりゆっくり身を委ねた。
「クゥ………」
おまえ……捨て犬なの?
心地よい柔らかな声がする。
そっと撫でられる頭。
あれ……誰?
にのちゃん………?
