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キラキラ

第33章 🌟🌟🌟🌟🌟


「起きたばっかで食えねぇっつの……」


苦笑して拒否するが、


「なにを女みたいなこと言ってるんだ」


と、鼻をならして一蹴された。


「食わねぇと治るものも治らないぞ?」

「……」


そりゃ、病気のときはそうかもしれないけど。
俺の場合は、怪我だけだから、別に……言い返しかけたが、ショウが、キッシュをフォークで懸命に小さく切り分け始めたのをみて、その言葉を飲み込んだ。

察するに、右手が使えない俺のために、片手でも食べやすいようにしてくれているのだろう。


……優しいやつだな。


俺は黙ってその様子を見つめた。


しかしそのうちに、その手つきに笑いがこみあげてきた。


不器用とはこういうことをさす、というお手本を地でやるのがこいつだ。

頭がよくて、人当たりがいいからみんな騙されるが、昔からスーパー不器用で運動音痴なのは、俺らの間では常識。
加えてなんだか運も悪い。

小さい頃、雅紀も交えて三人で木登りした話は今でも語り草だ。

運悪く枝が折れ、全員地面に落ちたが、骨折したのはこいつだけ。
俺と雅紀は擦り傷だけですんだというミラクル。

まあ……そんな超絶不器用な男が、俺のためになにかをしてくれているのに、それを断るのも申し訳ない気がして。


黙って、その手元を見つめていたものの。



「……おい」

「なんだよ」

「おまえ何がしたいの?」

「おまえのために切ってんだよ。見りゃ分かるだろ」

「……それフォークで刺せないレベルだけど」


ショウが持ってる皿のうえには、野菜をふんだんにもりこんだキッシュがあったはずだが。

なんだか炒り卵のようなものになってるのは気のせいか。

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