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キラキラ

第33章 🌟🌟🌟🌟🌟


紙袋いっぱいにクロワッサンを抱えて戻ってきたカエラに、はい、とそのうちのひとつを手渡されて。


「おいしーよ。歩きながら食べちゃお」


弾んだ声で促されて、つられるように頷いた。


温かい……


手の中にある焼きたてのような温かいそれを見て、……あの薔薇祭りの日のことがフラッシュバックする。


ミヤを早く探し出したいあまり、お昼を抜こうとした俺に、ジュンが、せめてこれだけでも食べてくれ、とどこからか買ってきたクロワッサンが……確かこんな感じだった気がする。


あのときの俺は必死だったから、パンの味なんかあまり気にしなかったけど。
ショウとジュンが、旨いな、と呟いてた事だけ、なんとなく覚えてる。


今、改めて手の中にあるそれをみつめ、俺は胸が苦しくなった。


俺の事を第一に考えて動いてくれた二人の王子。
……あの二人にはほんとに感謝してもしきれないや。


「サト?食べないの?」


二人の笑顔を思い出し、じっと黙った俺に、カエラがモグモグしながら不思議そうな顔をする。


「ううん。食べる」


あわてて、取り繕うように笑顔をつくり俺は一口かじった。

サクっという歯触り。
ほのかに香るバターと、温かくふわふわな食感。


「おいし……」


こんなに美味しいものだったなんて。
このクロワッサンの味を覚えていないなんて。
あのときの俺の余裕のなさに驚いた。


「……あの二人とも、美味しいね、くらい話をすればよかった……」



思わず思ってることが口をついた。



「あの二人?ショウくんたち?」

「うん。私、これあの二人と食べたんだけと…………どうしてか覚えてなくて」

「えー、なんでぇ?」



……ああ、理由は言えないや……
俺はただの旅行者だもの。



「わかんない。楽しすぎたのかな」

「ふふ……よっぽどだね?」


くすくす話してると、隣で冷めた目をしてるミヤと目があった。
一瞬ドキリとする。
そのミヤが、ぽつんと呟いた。



「なぜ……?」

「え?」

「なぜマサキ王子ではなかったのですか」


……………は?

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