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キラキラ

第34章 バースト9


「あれれ。そーんなあからさまに警戒しなくたっていーじゃん」


傷つくなぁって、泣き真似をする山下さんに、俺は黙ることしかできなかった。

だけど、実際問題、彼に何かされたわけでも、俺が嫌な想いをしたわけでもないのだから、あからさまにでっかい壁をつくるのも、ほんとなら失礼な話なのだ。

実は、生真面目である自身の性格は、こういうときに厄介で、どうしたらよいのか分からなくなってしまう。

無視は……できそうもない。
ならば、謝っておこうか。


「えっと……すみません」


うつむいてペコリとすると、山下さんは、いいこだね……キミは、と笑った。


「待ち合わせ?」

「あ……はい」

「こないだの子と?」

「……はい」

「あの子、経済の大野くんでしょー?どっかでみたことあると思ったら、結構有名人なんだねぇ。うちらのサークルも、もともと狙ってたみたいだよ」


断られちゃったけどね、と舌をペロリとだす山下さん。


「そう……ですか」


俺は、唇を引き結ぶ。

胸がキリ……とした。


……まただ。


どうして、翔はこんなに有名人なんだろう。

今さら、俺はあなたに釣り合わないかも……なんてそんな後ろ向きなこと思わない。
愛されてるって知ってるもの。

でも、なんていうか……モヤモヤする。

さっき、翔の店で居合わせた女子学生が騒いでいたのを聞いたときと同じような、黒い気持ち。



《……翔さんはね、潤くんを好きな人が現れないか心配してるだけだよ》


唐突に、かずの言葉を思い出した。
どうして、こんなにも俺を心配してくれるんだろう?と、俺が溢したときのかずの言葉。

翔は心配してるだけだよ、と、そう言ってくれた。


同じ気持ちなのかな。これ。
翔が有名人すぎて……俺は心配なのかな。

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