
キラキラ
第34章 バースト9
通路に立ち尽くしてる俺の脇を、邪魔だ、と迷惑そうにカップルが通り抜けてゆく。
俺は、反射的に、あ……すんません……、とつぶやき、ぎくしゃくと席についた。
俺たちの今の言い合いが聞こえたからか、近くに座る学生たちの好奇の目が、俺に注がれてるのが分かる。
とった、とられたの、痴話喧嘩に、なのか。
それとも、俺の恋愛の対象が男だから、なのか。
きっと、そのどちらにもだろう。
ヒソヒソとかわされる会話の、くわしい内容までは聞こえないが、
……大野くん
……経済学部の?
……一昨年のミスコンのグランプリのさ……
……あー告られたやつ……
「…………」
ところどころ耳に入ってくる単語をつなげただけでも、嘘だと思うミズキの言葉を裏付けるような材料になる。
それは、俺の気持ちを下げるには充分すぎるほどの威力があった。
でも……
俺は。
俺だけは。
こんな他人が言ったことに振り回されちゃいけない。
俺が信じるのは、翔の言葉だけだ。
翔だけだ。
自分に言い聞かせながら、俺は小さく深呼吸を繰り返す。
落ち着こうと、目を瞑る。
でも、どんどん鼓動が早くなってくるのがわかった。
息が苦しい……。
これヤバイ……
体内が、指先が熱くなってくる。
チカラの暴走の予兆だ。
頭がふわふわしてきたけど、かろうじて気力で踏ん張った。
翔……?
早く来てよ。
笑って俺を安心させてよ。
だけど、
……え、二股?
……あの男の子が、横取りしたってこと?まじ?
……大野くんって、噂どおりタラシなのねー
「……っ」
我慢してたものが、プツンと弾けた。
ぐるぐるうずまいていたチカラという熱が、出口をみつけたかのように一気に噴出する。
急激に巨大化したそのチカラは、津波のようにまたたくまに俺の意識をのみこもうとした。
