
キラキラ
第35章 屋烏之愛
その人はこんなに暑いのに、汗ひとつかいてないようにみえた。
彫刻みたいな顔だと思った。
口元は笑みをたたえていて。
……だが、笑っていない瞳にぞくりとした。
警戒信号が、ポンと心のどこかに灯る。
けど……何が危険なのかもわからない。
いきなり逃げ出すのもおかしいと思った俺は、ひとまず立ち止まり、
「なんですか」
と、たずねた。
「……君さ、さっきの競技で、松本といた人でしょう?」
「…………」
「オンナノコだったら、ってやつ」
そいつの瞳の奥の冷たさが増す。
んだよ……こいつ。
ってか、松本の名前を知ってる時点で全くの部外者じゃないことを、物語ってる。
俺は、平然としたふりをして、突き放した。
「……それが何か」
「付き合ってるの?」
「……あなたに関係ないでしょう……っていうかなんなんすか。そんな話つきあってらんねぇし」
俺は切り捨てて歩きだした。
なんだか、一気に不快になり、その場を離れたかった。
すると、
「宣言通り奪いに来たんだ、僕」
呟きとともに、俺の右手は、そいつにがっしり掴まれた。
「協力してね。初対面だけど」
