
キラキラ
第37章 寵愛一身
逃げようにも満員電車のなか。
傍らに松本は不在。
俺は、准一のその手をもう一度振り払おうとしたけれど……びくともしない。
絶体絶命という四字熟語が頭をよぎった。
「……そんな、化け物を見たみたいな顔をしないでくれよ」
准一は低く笑った。
そして、混雑していることをいいことに、俺の腰に腕を回し、体を押しつけてきた。
「……や……」
もうやってることは痴漢とかわんねーじゃん……!
俺は恐怖で言葉もでない。
なんとか体を遠ざけようにも、ドアに密着してるから、それもできない。
「次の駅でおりよう」
准一が、サボろうぜとばかりに、誘ってくるから、俺は、冗談じゃない!と、激しく首を振った。
本来降りる駅はまだまだ先だ。
「学校……」
「今日はいいじゃん」
「……よくない」
俺の精一杯の抵抗に、准一は、くすっとわらって体をかがめてきた。
松本のではない香りが、ふわりと鼻をかすめ、俺の背筋がぞわりと泡立つ。
准一は、世間話でもするように物騒なことを口にした。
「こないだは、手加減してやったけど。松本の腕。今度こそ折るよ?」
「………脅迫ですか…」
「うん、そう」
「…………」
俺ははずれたイヤホンを、片手でひきぬいた。
悪びれもなく笑う准一に従うしか、俺には選択肢がなかった。
