
キラキラ
第37章 寵愛一身
「……今、なんて?」
静かな声音。
でも、その声には底冷えするような冷たさがあり、俺はドキッとした。
俺に関する松本という名前は、もう潤くんしかありえない。
故にこの光一さんの迫力は、明らかに身内の名前がでてきたからだ。
だが、自分が強いからなのか、単に光一さんの変化を分かってないからなのか、准一は、あ?と眉をひそめただけだ。
「……なにが」
「……何が、じゃねーわ、クソガキ。今、松本っつったか?」
「それが?」
「松本潤か」
「うるせーな、だからなん……」
瞬きをした瞬間、光一さんは、准一の胸ぐらをつかみあげていた。
強い准一も、さすがに大人の男にはガタイ負けするのか、少し顔を歪めてる。
あの体のどこにそんな力が……
呆然と目の前の光景を見つめる。
額と額がくっつくくらいの近さで、光一さんは凄んだ。
「……あいつに手をだしてみろ。俺が許さんぞ」
「……離せ」
「聞いとるか。手を出すなゆーとんねや」
「それはわからん」
のらりくらりと交わす准一に、光一さんは、一層力をこめて首を締め上げた。
准一はちょっと苦しそうにした。
「……その制服はS高やな。過去の先輩に堂本ってのおらんかったか」
「…………いるけど」
「よう知っとんな」
「大昔のこのへんの総長……」
「おお。それ、俺や」
「…………!」
「分かったか。はよ去れや」
そう言って光一さんは、准一を突き飛ばした。
目を丸くした准一は信じられないという顔をしたあと、関わりたくないとばかりに、おとなしく黙って歩いていった。
最後にちらりと俺を振りかえって。
