
キラキラ
第30章 hungry 2
「どうしたの?櫻井。マサさんのこと知ってるの?」
「あ……いえ……」
心配そうに聞いてくる大野さんに、どう返事をしたらいいのか分からない。
言葉を濁そうにも、大野さんのあの目で気遣われると、思わず喋ってしまいそうになる。
……ああっ、どうしたらいいんだよ!!
意味もなく汗がでてきた。
咳き込みすぎて、まだいがらっぽい喉に、お冷やを流し込んでると、坂本先生は何故かこちらに歩いてきた。
「よお」
「……どうも」
「え……やっぱり櫻井、マサさんと知り合い?」
「えっと……」
駄目だ。なんも言い訳が浮かばない!
っていうか、あんた、黙ってろっつーわりに、なんで話しかけてくんだよ?!
一人で心であたふたしていたら、坂本先生は、ニヤリと笑って、俺の耳元で低く囁いた。
「死んでも俺の職業口にするなよ?ここでは、マサと呼べ」
「……はぁ」
「櫻井……?」
大野さんが、不安げに俺を見つめる。
そうか……。
大野さんは転校してきて数ヶ月。
しかも芸術で音楽をとってなかったら、坂本先生の存在なんか、そりゃ知らないだろうな。
同時に坂本先生も、大野さんのことは分からないはずだ。
俺は、迷って、
「マサさんは、友達の兄なんです」
と、大嘘をぶっこいた。
「へえ……そうなんだ!」
大野さんがキラキラした目になって、坂本先生と俺を見つめる。
ああ……心が痛い。
っつーか、大野さんと学校でバッタリあったらどうするつもりだよっ。
あとで、先生によく言っとかないと……!
じとっと坂本先生をねめつけていたら、先生はちょっと真面目な顔になり、俺を見た。
「ところで、櫻井、お願いがある」
…………なんだよ、改まって。気持ち悪い。
「……なんすか」
つっけんどんに言い返したら。
「ちょっとだけピアノ弾いてくれ」
………………。
「…………はぁ?!」
俺は、目玉が飛び出るかと思った。
