
キラキラ
第30章 hungry 2
なんでも、先生とコンビで活動してる、ピアノの長野さんが、事故渋滞に巻き込まれて、大幅に遅れてくるらしくて。
「アカペラで、場をつなごうかと、ヨシノさんと相談してたとこなんだ」
「いーじゃん、アカペラで」
「ばーか、間がもたんわ」
「俺だって、ばーか、って言いたいですよ。無理だって」
「大丈夫!今まで練習したことのあるやつでいーから。二、三曲歌ったら、あとは俺がなんとかする」
「無茶ですよ……!」
「なぁ、頼むよ。櫻井しか頼れない」
「いやですって!」
冗談じゃねぇ!
俺は必死で抵抗した。
すると、その様子を見ていたヨシノさんが、面白そうに目を輝かせながら、カウンター越しに首を突っ込んできた。
「なになに?なあに?櫻井くん、ピアノ弾けるの?」
「ええ。上手いですよ、こいつ」
坂本先生が、満面の笑みで相槌をうつのを、睨みつけながら、俺は首をブンブン振った。
「そんなことないです。そんな披露するような……」
「え……上手だよ。俺、こないだキラキラ星弾いてもらったもん」
にっこりと、大野さんがすげー追い討ちをかけた。
……まさかの刺客。
大野さん、いらないこと言わないで!!
思わず天を仰ぎそうになりながら、俺は頑なに首を振る。
いやだったら、い、や、だ!!!
これ以上ないくらいの意思表示をしてるのに。
誰もきいてくんない。
俺以外の三人は、そんな俺の反応なんかどこ吹く風といった具合に話をすすめる。
「へぇ……聞きたいなー。弾いてよ、櫻井くん」
「ほらな、櫻井。諦めろ」
「櫻井、じゃあ、一曲だけ弾いたら?」
……敵が三人に増えた。
誰か助けて。
俺が、よっぽど情けない顔をしていたのだろう。
ヨシノさんが、更に、その状況に乗っかって爆弾をおとした。
俺を助けようとした案なのだろうけど、それってどうなの?
「ならさ、さとちゃん。マサくんと一緒に歌いなよ。高校生二人が、飛び入り参加って、出たらいいのよ。」
今度は大野さんが止まる番だった。
「……え?」
「ね。マサくん。いい考えじゃない?この子、私の孫なの。歌すごい上手なのよ」
「ヨシノさんがいうなら本物だ。じゃあ長野がくるまで三人でやろう。決まり」
俺と大野さんは顔を見合わせた。
えええええっ!!!
