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キラキラ

第30章 hungry 2



大野さんの温もりで、固まってた体が、少し柔らかくなった感じがする。


俺は、熱い頬を自覚しながら、ピアノの前に座った。


鍵盤に指を這わし。

ゆっくり坂本先生を見る。

振り返った先生と目を合わせて……頷いた。



名曲 Let it be



イントロ部分でコケたら洒落にならない。
俺は、丁寧に心をこめて弾いた。


やがて、坂本先生の朗々とした歌声が響きわたった。
少しかすれた、先生のこの声は、すごく色気があって俺は大好きだ。

声量のある坂本先生は、多分マイクなしでもいいんじゃね?と、いつも思う。

先生の歌声に気持ちよくひきずられながら、俺は、曲の世界に浸り、メロディを奏でた。


2コーラス目


大野さんだ


……歌い始めた声に、一瞬指がとまりかけた。


なんてきれいな声だろう。
透明感のある、優しい声。

坂本先生とはちょうど対極にあるような声。

高音のファルセットなんか、プロか!とおもうほどで、俺は弾きながらゾクゾクした。

鍵盤から目を離し、歌ってる大野さんを見た。
ライトの下で、堂々と歌い上げてるその姿。
柔らかな髪が、白い肌が、キラキラしていて、少しうっとりと細められた目など、色気すら醸し出していた。


大野さん、めちゃんこ歌うまいじゃん……!!


俺はドキドキしながら、弾いた。


そして、大野さんの歌声に先生の歌声がかぶさった。


……すっげー……すっげー!!


弾いてて気持ちいいなんて、俺は初めて体験した。
ゾクゾクする。
この二人の歌声に、俺の奏でるメロディが絡まることが嬉しかった。
この時間が終わらなきゃいい、とさえ思った。



ふっと落ちた沈黙に、すかさず割れんばかりの拍手が鳴る。

坂本先生も、笑顔で、俺と大野さんに向けて拍手をくれた。

それは、飛び入りの高校生が、お客さんに認められたことを表す拍手でもあった。

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