
キラキラ
第30章 hungry 2
「はーい、お疲れさん。すごかった!カッコ良かったわよー二人とも!」
その後、無事二曲をこなし、大役を終えた俺と大野さんは、ヨシノさんから冷たいオレンジジュースをもらって、カウンターに座った。
到着した長野さんにバトンタッチし、客席からの惜しみない拍手を浴びて、俺らは舞台からおりた。
「なんか……俺、代わる必要なくない?」
長野さんが、苦笑するほどのアンコールの量に、笑顔で応えて。
差し出す大野さんの手を自然と握り、カーテンコールのように、何度も礼をした。
「いや、櫻井、すごいわ、お前。やっぱりピアノ上手いなぁ」
「それを言うなら大野さんでしょう。あんな歌声、初めて聞きました。すごい綺麗でした!」
俺らはまるで、酒を飲みながらほめあうサラリーマンのごとく、オレンジジュースを飲みながらひそひそと称えあった。
「指がさ……長いんだよなぁ、櫻井って」
言って、大野さんに手を取られる。
手のひらをあわせて、ほらね、と微笑む大野さんは、俺にとっては小悪魔のよう。
……ちょっと……いちいちドキドキするんですけど……
細い指が、触れてる場所が熱をもつ。
今日……俺、たくさん大野さんに触れてる。
それが、嬉しいやら照れるやら。
……感情が忙しいよ。
大野さんはストローの入ってた紙袋を、ちみちみいじりながら、照れたように笑った。
「櫻井のピアノで歌うのってさ、超気持ち良かった」
「いえ……こちらこそ、大野さんの歌にピアノつけれて幸せでした」
「ふふ、楽しかったね」
「結果論ですけどね」
目の前では、坂本先生が、yesterday を歌い上げ始めて、俺らは口を閉じた。
物悲しいこのメロディにあわせた、坂本先生の歌声は、セクシーだ。
長野さんのピアノも極上。
まさしく大人の音楽だった。
フロア全体が聞き入っている。
みんながうっとりと聞き惚れているのが、わかる。
みんなをひきこむ力をもつ坂本先生は……やっぱりすごい。
俺らはくっつきそうなくらいの位置で肩を並べて。
長野さんの織り成すメロディと、響く先生の歌声を、堪能した。
