
キラキラ
第30章 hungry 2
夕飯のプレートは、美味しかった。
自家製だという新鮮な山盛りのサラダに、焼き肉がたっぷりのっかって。
添えてある玄米のご飯なんか、おかわりしてしまった。
裏メニューよ、と、ヨシノさん手作りのゼリーまでお腹一杯食べた。
「ここは……いいお店ですね」
食事を終え、改めて店内を見渡す。
照明が少し絞られた静かな空間。
テーブルの柔らかなランプが、優しくゆらめく風景はなんだかとても落ちついて、なんだかこの店のもつ温かな温度が伝わってくる。
大野さんは、うん、と言って、ホットミルクを飲んだ。
「……俺、ヨシノちゃんの店が昔から好きでさ。こっち住んでる頃はずっと入り浸ってたな」
「……え?大野さん、もともとこっちの人なんですか?」
「そーだよ。五年生のとき、関西に転校したんだ」
……どうりで標準語なわけだ。
俺が一人納得していると、大野さんは、壁に目をむけて、ひときわ大きな絵を指差した。
「あれはね、じいちゃんが描いたの」
大樹の油絵。
キャンバスいっぱいに枝をはる、生命力溢れる作品だった。
店に入った時から、存在感がある素敵な絵だと思っていたが……。
「あんな絵が描きたいんだ」
大野さんが、優しい瞳で、その絵をじっとみつめてる。
聞けば、その他の絵も、すべておじいさんが描いたそうだ。
だからなのだろうか。
まるで、自分がこの店の家族の一員であるかのような、アットホームな空間に思えるのは。
ヨシノさんとおじいさんが作りあげた大事な大事な場所。
……そして、
「……いつか。俺が傑作を描けたら、この店に飾ってくれるって。ヨシノちゃんが約束してくれてるんだ」
呟くように言う大野さん。
飾らずに。構えずに。
……彼が本音を話してくれることが、俺には嬉しくてたまらなかった。
「……描けますよ、きっと」
俺も、そっと呟いた。
大野さんは、目を細めて静かに微笑み頷いた。
「……ありがと」
……ふと腕時計に目を落とせば、いい時間。
家には連絡をいれてるけど、いい加減帰らなくては。
何よりも、大野さんの大事な時間を、俺がどんどん奪ってる。
「……そろそろ帰りますね」
名残惜しさを感じながら、俺は、ジャンパーをもって立ち上がった。
