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キラキラ

第30章 hungry 2



「あ……じゃあ、そこまで送るよ」


大野さんが、自分のコートをカウンター横に取りに行くのを、俺は、あわてて止めた。


「いえ、いーです。駅なら分かるし」

「ううん、行かせて。心配だから」


ここは初めての街だろ?、と、大野さんはいそいそとコートを着込んだ。

そりゃ、俺だって、ずっと一緒にいたい。
でも……いいのかなぁ。


戸惑う顔をしてる俺に、ヨシノさんが近寄ってきた。


「帰るの?」


俺は、深くお辞儀をした。

タダで飯をいただいて、長居させてもらって。
ほんとに居心地が良かった。


「はい。ごちそうさまでした。ありがとうございました」


「……まあ。近くで見たら背が高いのね~。」


ふふ……ヨシノさんは、ちっちゃいんだなぁ。

そんなことを思ってたら、不意にヨシノさんが手をのばし、あっという間に俺の頬にキスをした……。


「…………!!?」


不意をつかれ。
ビックリして後ずさる。

ヨシノさんは猫みたいな目を、いたずらっぽく輝かせて、ニッコリ笑って言った。


「またいらっしゃいね」


「ちょっと……ヨシノちゃん!!ここは日本だから!!!」


大野さんが慌てて俺を引き寄せて抱き締めたもんだから、俺は、更にパニック。


大野さんの腕のなかで、頭が爆発しそうになる。

ところが、俺が真っ赤になってるのは、ヨシノさんのせいだと思った大野さんは、


「ほらぁ……櫻井を、からかっちゃダメじゃん!」


そう言って、ますます力強く自分の方に、俺を引き寄せた。


あの……あのう!

硬直する俺。

だが、俺の動揺など知る由もない大野さんは、俺を抱きしめる手を緩めない。

ヨシノさんは、子供のようにぷうっと頬をふくらまして抗議した。


「なによう。お別れの挨拶じゃない」

「んなわけないでしょ!」

「ハワイでは挨拶だもん。ねー櫻井くん」


ヨシノさんの手が、もう一度のびかけたから、大野さんは俺を抱き締めたまま、くるりと後ろを向いた。


「もう!触っちゃだめ。ヨシノちゃんはお触り禁止!」


あの……あの……!!


俺は口をパクパクするしかなくて。


でも。
大野さんとヨシノさんのやりとりをききながら、俺は、沸騰しそうな頭のなか、ただただ感じてた。


大野さんの腕の中の温かさと。

……ふわりと香る、甘くていい匂いと。

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