
キラキラ
第30章 hungry 2
駅までの道のりは、大野さんがひたすら俺に謝ってくれた。
俺は、どんな顔をしてよいかわからず、返事をしながら、マフラーに顎を埋めうつむき加減に歩いた。
暴れまわる心臓をおさめるのに、時間がかかる。
…………体に残る大野さんの腕の感覚が消えない。
この、恋心は、表に出したくないのに。
蓋をしても、しても、端からこじあけられてるような気持ちだよ。
責任とってよ……大野さん。
口数の少ない俺が、怒ってると思ったのか、大野さんは、いつもより饒舌だ。
「……大丈夫ですよ」
だめだ。
これ以上、気を使わせないようにしなきゃ。
赤い顔が、この暗闇にとけこんでみえなきゃいいと願いながら、俺は、ゆっくり顔をあげ、大野さんを見つめた。
大野さんが、ほっとした顔になったのをみて、苦笑いしてしまう。
そんな大野さんは、コートのポケットに両手を突っ込み、取り繕うようにおどけてみせた。
「もうさ……ヨシノちゃんってハワイ育ちだから、やることがアメリカンなの。キスも挨拶のつもりだから気にしないでね」
「……はい……」
いや、どっちかっつーと、そのあとの大野さんのハグの方が、俺には刺激的だったんだけどね……。
未だに火照っている頬が、夜風にさらされて気持ちいい。
俺の笑顔を確認して、安心したような大野さんは、ポケットに両手を突っ込んだまま、ポテポテとのんびり歩きだした。
そんな姿も、また無邪気で可愛らしいな、と思った。
二人で、しばらく黙って歩いていたけれどやがて大野さんは、何かを思い出したように、クスッと笑った。
「……どうしたんですか?」
「……ん?櫻井って着痩せするタイプなんだなって思って」
「え?」
「さっきギュッてしたじゃん。もっと華奢なのかと思ったら。意外と筋肉質でびっくりした」
「……そ…うですかね?」
「うん。俺もよく言われたよ。細くみえるけど、意外と胸板とか厚いんだよ?筋トレはサボらなかったから」
ほらほら、と大野さんは俺の手をとり、自分の胸に押し当てた。
「…………!!」
「ね」
ニット越しに大野さんの温もりが伝わってくる。
