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キラキラ

第30章 hungry 2


ちょっ……静まれ、俺の心臓!!


俺は、必死で理性を保とうとした。

だけど、大野さんの胸にあてられた俺の手のひらや、俺の手首を掴む大野さんの指や。

何より、俺を上目遣いでみるその仕草に。


「…………っ」


プツンと何かがキレた。


俺は、あいた方の手で、大野さんの腰を引き寄せて……そのまま体格差にものをいわせ、大野さんを……抱きしめた。


好きで好きで。
閉じていた心の蓋をぶち壊して、胸からあふれでてきたこの想いに……ついに流される。


無我夢中で、その華奢な体を抱きしめる手に力をこめた。
大野さんの髪から、さっきかいだいい匂いがふわりとして。


ドキドキとなる心臓が、身体も揺らしているよう。

脳みその中も、視角も聴覚も何もかも一瞬だけ、無になった。


大野さん……



「………櫻井?」



霞んだ脳みそにクリアに響く……至近距離の戸惑う声に、はっと我にかえった。



「あ……」


やべ……っ


慌てて手をほどくが、大野さんの顔を真っ直ぐにみれない。


俺、なんてことを……!!


大野さんが、黙って俺を見上げてる気配がする。

俺が目をあわせたら、きっと、「どうしたの?」って、戸惑いながらも、のほほんと聞いてくるにちがいない。

だけど……なんでもない、という答えも、ちょっと抱きしめたくて、という答えも。
ましてや、あなたが好きだから、という答えも、どれもこれも、俺は口にすることができなくて。



「…すみません。今日はありがとうございました。ここで大丈夫ですから!」


結局。

早口でまくしたてて、俺はうつむいたまま走り出した。


「櫻井!」


大野さんの、呼び止める声が後ろでしたのが分かったけど、振り返ることも、立ち止まることもできない俺は、駅まで全力ダッシュをした。


大野さんを抱きしめることができた嬉しさなどなにもない。


ただただ。明日からどうしよう……の想いだけだった。

学校内で、大野さんに出会ったらどんな顔すりゃいーんだ…!

俺のバカバカバカ……!


カサカサとバッシュの入ったビニール袋をぶら下げて、俺は券売機の前で、深いため息をついた。

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