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キラキラ

第30章 hungry 2

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次の日から、しばらく俺はびくびくして学校生活をおくっていたが、大野さんと出会うことはなかった。

それはどんな顔をしたらよいのかわからない俺には都合がよいことだった。
もし、抱きしめた理由を聞かれたって答えられないし。
かといって、何事もなかったように振る舞う自信もないし。


そもそも校舎の違う3年生に会うことはそうそうない。

そして、受験前の人間が部活に顔をだすこともない。

だから、この先も気をつけてさえいれば、しばらく大野さんとニアミスする可能性は少ないだろう。

もう少し気持ちが落ちついたら……また連絡してみようかな、と思う。




ところが……落ちつくどころか、あの日以来、大野さんを想う気持ちは募るばかりだった。


一緒に買い物をした。
一緒に歌って、一緒に飯を食った。


共に過ごした時間が幸せすぎて、俺はあふれる気持ちをもて余している状態だった。

つまり、好きという気持ちは、消えるどころか倍以上に膨れ上がっていて。

……俺、この先ずっと、大野さんにしか恋心をもてないかもしれない。
女子を見てもなんとも思わない自分が怖い。


もう……いったいどうしたらいいんだよ……。








その日の部活も、雅紀のかけ声にあわせながら、いつものメニューをこなしていた。

体を温め筋肉をほぐすために、練習前に校舎のまわりをランニング。
部員全員で足並みをそろえ、軽くながしてる最中。


「あ……」


雅紀の呟きに、足元に下げていた視線をなにげなくあげたら、前方から歩いてくる三人組が目にとびこんできた。


背の高い笑顔の先輩と、筋肉質な先輩と、紺のマフラーが似合う……先輩。


心臓がとまるかと思った。


雅紀の歩調にあわせスピードをおとし、目の前のバスケ部OBである井ノ原先輩らに挨拶をする。

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