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キラキラ

第30章 hungry 2

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年が明けた。


新人戦と、大野さんの美大の入試の日程がかさなっている、ということが分かったのは、新学期早々、雅紀と学食で、ラーメンをかっこんでるときだった。


「俺も井ノ原も入試前だし。大野にいたっては、ドンかぶりだし。みんなさすがに応援に行けねぇからなぁ。ま、頑張ってこいよ?」

「はい。絶対勝ちます!」


隣の席でカレーライスを口にしながら、岡田先輩がのんきに言い、雅紀がそれに答えてるのを、俺は、メンマをポリポリかじって聞いていた。


入試と……同じ日なんだ。


あの日以来、学校内でのニアミスも皆無。
LINEも送りあうほどの仲ではないため、悲しいほどに大野さんの顔を見ていない。

会いたいんだか会いたくないんだか。
その気持ちを天秤にかけたら、やはり会いたいに傾く俺は、一縷の望みをかけてこうして学食に出向いてる。

はっきりいって、三年生と会える機会なんかここくらいしかないんだ。

その証拠に、岡田先輩とは、今週ずっと出会ってる。


ってかさー……のんきに毎日カレー食ってないで、井ノ原先輩も連れてきてよ……そしたらもしかしたら大野さんも来るかもしんないのに……


なんて、思ってしまうのは許してほしい。


俺が、モヤモヤとしながら麺をすすってると、雅紀が、


「そーいえば、井ノ原先輩と大野さんは元気ですか?」


と、話をふった。


……えらい!雅紀!!


色めき立った俺は、それでもなるべく平静を装いながら、目だけあげて岡田先輩をみた。
岡田先輩は、大きな目をちらりとこちらに向けて、にやっと笑った。


「元気元気」

「ちっとも見かけませんから」

「んーあいつらは、弁当組だからな。特に大野なんかは、そんなに食べねぇし」


カランとスプーンをおき、水をごくごく飲む岡田先輩は、大盛りカレーを完食したのに、俺らを見て、


「ラーメンも食おうかな……」


なんて言っちゃってる。
昔からよく食べる人だったけど、相変わらずなんだな、と笑えた。

チャーシューを箸でつまみあげて、いります?といったら、ははっと笑って、いらねーよって返された。


「会いたいから学食来てって、お二人に言ってくださいよ」


俺が、意を決してそう伝えると、岡田先輩は、食堂の入口を見て、くくっと肩をゆらした。


「来たぜ」


……え?!


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