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キラキラ

第30章 hungry 2


岡田先輩の視線を追って振り返れば、入り口に立っているのは井ノ原先輩……だけ。


……なんだ、一人か。


内心超ガッカリした俺だが、そんなことはおくびにも出さず。
挨拶をしようと、体ごと振り返った。

だが、視線がなかなかあわない。

井ノ原先輩も、おそらく岡田先輩を探しているのだろう。しばらく食堂内を眺め渡していた。

やがて、井ノ原先輩の視線の先にうつりこむタイミングで、岡田先輩が、ここだ、というように片手をあげた。

すると、俺らを見つけた井ノ原先輩が、細い目をくしゃっとさらに細め、嬉しそうにこちらに歩いてきた。


「おお……櫻葉。元気だったかー? 」

「はい、お久しぶりです」

「こんにちは」



オーバーにおどけてみせる井ノ原先輩に、俺と雅紀も、席を立って挨拶した。

岡田先輩が、頬杖をついて、井ノ原先輩を見上げる。


「……今日は弁当じゃなかったのか」

「いや、弁当。でも、なんか足りねぇからソバ食いにきた」


いいながら、制服のポケットをまさぐって小銭を数えてる井ノ原先輩に、岡田先輩が、俺のも買ってきて、と財布を出してる。


……この先輩方はそろって食欲魔神だ。
頭使ってるから、お腹すくのかな。

雅紀と、密かに目をあわせて、笑う。


岡田先輩が、不思議そうに井ノ原先輩のまわりを見ながら、一人足らないと言うように首をかしげた。


「……大野は?教室か?」

「保健室」

「え?」

「えっ?!」


岡田先輩の聞き返した言葉に、思いきりかぶって反応してしまい、あわてて口を押さえる。


え、保健室?!
ケガ?!病気?!



「なに、どうしたんだよ」

「んー、なんかしんどそうでさ。飯もあんま食わなかったから、松潤とこで寝とけって、今、放り込んできたんだ」


「……そっか。珍しいな」


「入試近いから、無理してんじゃねぇの。保健室入るのも嫌がったけど、体調崩したら元も子もないって、怒ってやった」


そしたら大人しく入っていったよ、と、眉を下げる井ノ原先輩。


俺はドキドキしてそれどころじゃなかった。


ちょっと待って、ちょっと待って。
今、松潤とこに行ったら、大野さんに会える!

……いやいや、でも松潤にからかわれるのは嫌だし……。

だけど……



「……しょ、翔ちゃん?どしたの?」

雅紀の声に我にかえった。

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