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キラキラ

第30章 hungry 2


怖い顔をしていたらしい。

雅紀が、おーい、というように俺の前で手のひらをひらひらさせてる。


「翔ちゃん?」

「あ……えっと」



ぎこちなく返す俺の心は、既にもう保健室にあった。


……会いたい。
大野さんに会いたい。



その気持ちが自然と体を動かす。

俺はトレーを持ち上げて、その場にいる三人にペコリと頭を下げた。
突然立ち上がった俺に、みんな驚いた顔をしたけど、かまうもんか。



「すみません。提出物あったの忘れてたんで、ちょっと戻ります!!」

「え……なに?なんかあったっけ?」


雅紀が慌て出したから、


「うちのクラスだけだから」


強引な理由でねじ伏せた。
ついてこられたらたまらない。

嘘も方便と言うが。
我ながら、よくもまあ、でまかせがいえるものだ。


ひそかに自分に賛辞を送りながら、俺は、足早に食堂をでる。


目指すは本校舎一階の、保健室。



走って走って。

ドキドキとなる心臓と、弾む息をおさえて、保健室の扉の前に立った。
白い引き戸の向こう側に、大野さんがいると思うだけで、心が高鳴った。


年末にランニングしてたときに出会って以来だから、かれこれ二週間以上経過してる。

しかも話をしたのは、ヨシノさんの店に行った日以来だから、1ヶ月は経過してる。

大野さん不足も甚だしい俺は、最後に別れた当日に自分が何をしでかしたかとか、そんなことはどうでもよくなっていた。

なんでもいいから顔がみたい。
話がしたい。
声を聞きたい。

……ただそれだけ。



コンコン、と軽くノックして、失礼します、と小さく呟き、カラリと扉をあけた。

奥のデスクで書き物をしている松潤が、ちらりとこちらを見て。


「……情報早ぇーな……」


と、小さく笑った。

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