
キラキラ
第30章 hungry 2
「……大丈夫ですか」
たずねると、大野さんは、うん……とうなずいて情けなさそうに、眉を八の字にして笑みを浮かべた。
その顔色はあきらかによくなくて。
目の下にはクマがあり、大丈夫じゃないのは一目瞭然だった。
入試前だから、無理してるんじゃねぇの?と言っていた井ノ原先輩の懸念は、正しいだろう。
保健室に送り込んで大正解だよ……。
俺が黙ってると、大野さんは小さく呟く。
「……ただの寝不足だと思う。ちょっと最近根詰めすぎたかも……」
「大事な時期なんだから……あまり無理はダメですよ」
「うん……」
大野さんは、頷いて、髪の毛をだるそうにかきあげた。
そして……しばらく黙ってから、また考えるようにぽつりと言った。
「……俺さ、一校しか受験しないの。だからスベったらそこで試合終了でさ……実家に戻らないと行けないんだ」
「……」
「親に啖呵きって出てきてるから。絶対合格しなくちゃ、ヨシノちゃんにも申し訳なくて……」
尻すぼみに小さくなってゆく言葉。
受験なんて、勉強しても勉強しても、絶対大丈夫なんて保証はないのはみんな一緒だ。
でも大野さんが持つ、どうあっても合格しなきゃ、というプレッシャーは、きっと普通の学生より大きいのも、確かだろう。
不安でどうしようもないといった顔に、俺は、思わず投げ出された大野さんの手をとった。
ひやりと冷たい手。
ひざまずき、暖めるように両手で握ると、大野さんは戸惑うような顔になった。
「……櫻井?」
「大丈夫。絶対合格します」
「……」
「だって、大野さんはこんなに頑張ってる。神様はきっと見てます」
「ふふ……最後は神頼みだ」
大野さんが自嘲気味に言うのを、俺は首をふって遮った。
「俺も……信じてますから」
大野さんは、目を見開き、そして小さく微笑んだ。
俺は、大野さんを元気づけたくて、その手をまたギュッと握る。
そして。
「……あの…大野さんの入試と俺らの新人戦の日、同じなんです」
「……そう」
「試合……終わったら……会ってくれますか」
「優勝報告?」
「……そうなるように俺も頑張りますから、……だから」
大野さんも。
自分を信じて。
目で訴えたら、大野さんはこくりと頷いた。
「うん……頑張ってくる」
「……一緒に戦いましょう」
