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キラキラ

第30章 hungry 2


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……絶対負けねぇ。


大野さんに選んでもらったバッシュの紐をしめなおしながら、心で何度も繰り返す。


初戦前はいつも緊張する。
ともすれば、その緊張に負けそうになることもあるから、マインドコントロールというほどでもないけれど、俺は常に、自分が勝った画を思い描きながら準備するんだ。

バスケットに限らず、スポーツは一瞬の気の緩みで、勝負がひっくり返るものだ。

自信のなさは、即座に隙につながる。


俺は、目を閉じ、大きく深呼吸した。



大丈夫……勝てる。



隣では、雅紀が同じようにベンチに座って、うつむき集中している。


……こんなに頼りになる相棒はいないしな。


気づけば、彼のバッシュの紐の色がいつもと違う。


……願かけだろうか。


ふいに、うつむいたまま低い声で雅紀が口を開いた。


「……翔ちゃん」


「……ん?」


「あのさ……二宮あいつ隠してるけど、多分本調子じゃない」


「……どうして」


「熱っぽい気がする」


「……マジか」


さりげなくベンチの一番はしにいる二宮に視線をやる。

なるほど、まだ動いてもないのに、頬がほんのり赤い。
だが、潤んでいるようにみえる瞳は、鋭く前を見据えている。
戦うつもりはあるようだ。


「……あいつが、自分で、もう無理って判断するまで、交代せずに、このままいこうと思うんだけど……いいかな」


雅紀が小さく続ける。
おれも、周りに聞こえぬよう声を潜めた。


「……知らんぷりしろってことか」

「うん……多分、黙ってても、二宮の動きで翔ちゃんにはバレるだろうから、先に言っておこうと思って」


「……」


とことん雅紀は二宮に甘いな

ふんと笑い、俺は冷静に考えた。


あいつは、頭のいいやつだ。
このまま試合になっても、自分で、これ以上のプレーは、俺らの足を引っ張ってしまう、と感じたら、その場で自らさがるだろう。


……それならば。


「ああ……分かった」

「これ、松岡と俺と翔ちゃんしか共有してないからね」

「……了解」


勢いをつけて立ち上がる。


今日の晩。
大野さんに、優勝報告をする。
絶対。


体育館の時計に目をやる。
そろそろ大野さんも試験が始まる頃だ。



俺は、ストレッチしながらゆっくりコートに入った。

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