ビタミン剤
第3章 修行
「ニノ、ニノ。着いたよ。」
「ん、んん…」
寝起きの悪さには定評のあるので
今更でもなく、2人分の荷物を持ち
抱き抱えるようにしてタクシーから
降りた。
俺たちのシルエットは
マンションのエントランスへと消える。
「ニノ、ほらポケットの荷物。
ぜんぶ出してね。」
「…んん。」
エレベーターの中の会話。
そう言いながら俺も自分のデニム
シャツ、ジャケット
何かが入ってないかを確認する。
携帯、鍵、レシート。
思いつくままにポケットに、
放り込む癖のあるニノが
次から次に手の平に乗せてくるのを
手早くカバンに入れながら
視線を感じると
帽子のツバの向こうに艶めく
二つの眼差し。
玄扉の向こうに入ってしまえば
閉鎖された2人だけの空間。
脱力し、よろめきながら寝転がる
ニノのブーツを脱がしてやる。
荷物を降ろして
重なるような体勢で唇を捕まえた。
先ほど視線で強請られてた口付けを
ほどこしてあげる。
なにかを探り当てるように
差し込まれるニノの舌は、
爬虫類がエモノを探して口腔内を
うごめくかのような動きで
俺の舌に触れ合うとねっとりと
絡みついてくる。
捕らえられたかのような錯覚。
唇に名残惜しげに残る唾液は
触れ合ってた時間が長かったことの
あかし。
俺は靴を脱ぐのもどかしくて、
重力に反発して
ニノを抱き抱えながら立ち上がり
そのままバスルームへと向かう。