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ビタミン剤

第16章 千夜一夜物語

Sside


「うわぁマジかよぉ!
駱駝にビビってだっせぇとこ見られたら俺、速攻で雅紀フラれるじゃん。」

「フフ、ビビりでもへっぴり腰の翔ちゃんでも可愛いくて好きだもん
あ、駱駝に乗るの変わろうか?」

「うるせぇ、ぜってぇー乗らねぇし」

なんてやりとりをしながらゆっくりとした足並みで砂漠の中を歩いてく。

太陽が傾斜していく角度が深まって
見渡す限りの砂漠が色あざやかな夕陽色に染め上げていってる。

背筋を伸ばして駱駝に揺られてる雅紀は、童謡の中の王子様か?いや、日本に帰ったら俺のお姫様になる予定だから?

雅紀を見て思わず吹き出してしまったら、首を傾げて微笑みかけてくれる。


「なあに、翔ちゃん?」

「やっぱ雅紀には笑顔が1番似合ってるな。」


「えへへ、ありがと。
翔ちゃんがわざわざこんな遠くまで逢いに来てくれて付き合おうって言ってくれてまだ夢見てるみたいめっちゃ嬉しいし、最高に幸せな気分だよ。」


「夢なんかじゃねえよ
キスしたの覚えてない?」

「あ、…うん…覚えてる…よ」


「あやしいなぁ
あん時の雅紀かなりぼんやりしてたからなぁ。」

「違っ、ホントにちゃんと覚えるよッ!」

「雅紀、そこから降りれる?
ここでさ、もいっかいキスしよっか。
俺ら2人のはじまりの本気モードのキス
砂漠より愛を込めてさ」




やべえ…自分で言ってても恥ずかし台詞。

砂漠で失うところだった雅紀の一途な想い。
雅紀と2人でしっかり持って帰りたい。


「うん翔ちゃんっ!」


「ドワァッ危ねえ!飛び降りんなよ。」

「翔ちゃんだぁいすきっっ」

「おまえなぁ、痛えんだよ。本気のキスするから
ほら、ちゃんと目を瞑れよ。」

「うん!」


砂の稜線が夕陽をすべて飲み込んでしまう。

闇が辺りを包んで、ふるえだすくらい瞬いている幾千の星空の下、駱駝の陰に隠れながら砂漠のど真ん中ではじまりのキスをした。



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