ビタミン剤
第1章 ビタミン
だけどやっぱりこの人なんだ。
蜜柑を受け取らず黙り込む俺の様子を
不思議そうに首をかしげる目の前の智くん。
もう迷わない。
一歩踏み出す勇気を今貰ったから。
深呼吸してから立ち上がり
智くんを両腕できつく抱き締めた。
智くんの手から落ちて
床に転がってしまう俺の顔をした蜜柑。
「 なっなに、どしたの翔ちゃん?」
「最高のお土産ありがとう、智くん。
俺は貴方が大好きだよ。
ずっとずっと好きだった。
智くん、キスしていいかな?」
「へ?
…えっ…えっ?えっ…と」
智くんの初めて触れた唇の感触は
ずいぶん前から想像していたものより
小さくて柔らかでとっても甘いもの。
「ごめんね。
俺、こんなへたれな男だけど。
智くん 蜜柑の俺じゃなくて
本物の櫻井翔に
目の前の俺にいっぱい話しかけてほしい。
だから俺とつきあってください。」
「…翔ちゃん。」
智くんの驚き見開かれた瞳のふちが
潤みはじめる。
慌てその雫を指ですくいあげながら
角度を変えて2度目に重ねる唇。
硬直していた智くんの腕が震えがながら
俺のシャツをきつく握りしめてくれた。
「智くん、俺のビタミンは貴方だよ。
智くんが俺の元気の素なの。」
言葉、歌声、表情、仕草
智くんを作り出してる
細胞組織の一つ一つすべてが
愛しくてたまらない
「あのね、智くん。
もうずっと大好きだったんだ。
だから俺と一緒に暮らしてください。」