ビタミン剤
第33章 花浜匙(躑躅色)
「車出してくれてありがと。」
「いえいえ、わたしは休みですから
ついでに買い物して帰るつもりだしね」
「ああ!うわぁ
ごめんっ、俺昨日の会計してねぇじゃん
奢るよって言ってたのに。」
財布の中身を見て大声だす潤くん
まじめで律儀な性格なんだよね。
「いいよ、別に。
また次の機会に盛大に奢ってもらうから」
「あのさニノ、だったら今夜うちに来てよっ
昨日迷惑かけたお礼もしたいし。
手作りじゃ奢りになんないかもだけど
なにか美味いものご馳走するから」
ハンドル操作をしながら
必死に言い募ってくる潤くんに微笑み返す。
「そんなのいいから。
潤くん仕事して疲れて帰るのに、手料理で
もてなされてもこっちも気が引けるから。
そんな気を使わないで。
ホント何時でもいいんだから、ね?」
しばらく無言が続いた。
車内の空気をかえようとオーディオの
スイッチに手を伸ばしたその時
「ニノのうそつき…降ろせよっ!」
助手席側のロックを外して扉を開けようと
するから慌ててその動きを制止する。
俯いた潤くんの眸からは涙がこぼれてた。
「なんで、どしたの?
ちょっと泣いてるの潤くん??」