ビタミン剤
第33章 花浜匙(躑躅色)
慌ててウィンカーを出して右折して
コンビニの駐車場へ車を止めた
「一人きりにしないって言ったくせに。
夢だよ、夢の中だけど
忘れないでね、俺はずっと潤くんの
ことが好きだよ、傍にいるからって
言ってくれたくせに……ニノのうそつきっ!」
あのとき俺が暗がりでささやいた台詞
ちゃんと覚えててくれたんだ。
「朝目覚めた時はびっくりして戸惑ったけど、
シャワー浴びて頭の中すっきりしたら
しっかり思い出せたから。
でも、ニノはすっごく普通だしなんにも言わねえし。なんにも無かったみたいに接してきたから…
だから
聞いちゃいけないのかなぁって…
でも、確かめたかったんだ。」
臆病風に吹かれてた
潤くんが失恋して落ち込んでる隙を狙ってたって
思われるのも嫌だった。
夢の中の出来事に、曖昧にしたまま
先延ばしにしていつかのタイミングで
きちんと伝えればいいかなぁって
そんな卑怯なこと考えてたんだ。
「潤くん…」
「俺、ちゃんと覚えてるよ。
くちびるの感触も、ニノのぬくもりも
抱きしめてくれた腕の力も
すっごくうれしくて、気持ち良かったから。」