テキストサイズ

ビタミン剤

第38章 愛のある風景



窓から見てみると小さく見える船の上で
こっちに向かって
両手を広げておもいっきりふる仕草。
あれをおじさんって認識するのはちょっと
時間がかかるかも。

電話の向こうからは
能天気な声で野太い声の船長さんとの愉しげな
やり取りの会話。



忙しいそうだから勝手に切ってやった


番組収録のときなんてろくに話し声も聞けない
無口な男のくせに船の上で釣りしてるとあんなに
楽しくやってんだ…

なんかすこし癪に触るかも。

ゲーム機に手を伸ばして
今日のノルマを考えてるのふたたび着信音

「なーに?」

「おっめぇなぁ勝手に電話切ってんじゃねぇよっ
かずも手ぇふったりしろや!」

「はいはい、
俺も世界を救う事でたいへんなのよ。じゃあね。」

もう船の上でかずなんて名前で呼ばないでよ
どれだけ気持ちが緩んでんだって。

しばらくゲームに夢中になってるとまた携帯が
鳴り出したけど、これには無視を決め込む。
けど、出るまであきらめない長いコール音
仕方ないからおもいっきり不機嫌な声で出る。

「もうなんなんですか、俺だって忙しいって
いってんでしょ」


「おいかずっ外見てみろや!
ほれほれ、こっち見てみ!すっげぇからっ!」


昨日脱ぎ捨ててあったシャツをのっそりと
拾い上げて今度はバルコニーに出てみた


まぶしさに目が眩むのを感じながら手をかざすと真っ青な空と水平線の間にあざやか虹が見える。


「ちょっと、おじさんどこ?」

「すっげーでっかい虹だろ?
今、船走らせて虹の根っこまで行ってるとこ。
かずよーく見とけよ」


さっき見た場所から船は移動してて
どんどん小さくなっていく
まるで水平線の彼方に消えてしまいそうに小さく。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ