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無題

第1章 空から堕ちてきた天使




俺が入院してから3日がたった。慣れてしまえば入院生活も苦ではなくなっていた。
病院食は思ったより不味くはないし、看護師さんだって美人が多い。部屋だってたまたまだか相部屋ではなく自分1人で気が楽だ。

しいて文句をつけるとするならばその日その日の時間潰しくらいだろう。漫画もゲームは2日で飽きてしまった。

さて今日はなにをしようかと何度も読み返している漫画を片手にぼんやりと病室から空を眺めた。空はどんよりとした分厚い灰色の雲で埋め尽くされている。なんだか今にも泣きだしそうな空にどこか気持ちまで沈んでゆく気がした。

切り替えないと。フラッシュバックする父の顔が俺の気持ちを支えてくれる。心配かけてはいけない。不安なのはきっと俺よりもそれを見ている事しかできない父の方なのだと身をもって知っている。


ぽつり
、ぽつり。雨が降ってきた。窓を叩く小さな雨粒にベットからゆっくりと立ち上がる。病室に雨が入らないように、微かに開いた窓へと手をかけた。

そういえば今日お見舞いにくるってゆってたっけ。俺の体調を心配してたか、幼馴染である大輝のLINEの文章を思い出しながらカタっと小さな音をたてて窓が閉まった瞬間だった。

刹那、目の前を通り過ぎてゆく影。それは一瞬の出来事だった。


「え、?,,,,な、なんだ?今の,,,,?」


なにかが落ちた??
頭の中に浮かび上がる疑問に一瞬思考回路が停止しそうになった。ここは7階まである病棟で、俺が使っている病室は丁度6階だ。錯覚か?と自問自答をしてみるも体は目は、間違いないと訴えかけてくる。

あれは確かに人だった。
落ちてくる一瞬、ほんの一瞬俺はそれと目が合ったのだから。

そう理解するよりも先に俺の体は走り出していた。何故いくのか、ここは病院できっと俺が行かなくても他の誰かが気づいてくれる筈だ。好奇心?そんなものではない。
ただこの現実が嘘だと信じたかったから、ただそれだけだった。


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