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無題

第1章 空から堕ちてきた天使



雨は先程とうってかわりまるで台風のような激しい雨となっていた。久しぶりの全速疾走のせいか肺が痛い。雨が服に染み込んで重い。最悪な気分で目的の場所へついた俺に待ち受けていた光景はやっぱり最悪以外に他ならなかった。

長い黒髪、見馴れた制服、いつも真っ直ぐこちらを見る意思の強い目は固く塞がれていた。


「そんな,,どうして,,,」


容姿端麗、成績優秀、学校で人気者の彼女がそこにはいた。黒い髪の間から滲み出る赤はゆっくりと広がり、ついに俺の足元まで届きそうになるまで、
その赤が彼女の命だと気づくまでにどのくらいの時間がたったのかわからない。

このままじゃ、きっと、彼女はーー。
それからの事はあまり無我夢中で覚えていない。

ヒリヒリ痛む俺の喉は大きな声を出すのが苦手らしい。そっと喉を撫でながら自分の病室へと戻った俺、否戻らされた俺はどっときた疲れにベットへ体を埋めた。

未だに先程の光景を受けいれられない頭を、服に微かについた赤があれは現実なのだと知らせてくる。

どうして彼女が、事故?自殺?

答えの見つからない疑問に頭がショート寸前だ。それ程彼女は俺の目から見て不満など持ち合わせていないように見えていた。
常に笑顔で、気が利きながらも自分の意見をはっきりいえるクラスの人気者。まるで異次元から飛び出してきたかのような王道ヒロインのような彼女に誰がこの展開を想像できただろうか。


記憶のページを開いても、思い出せるの皆の中心で笑う彼女ばかりで。たまに見せる意思の強そうな真っ直ぐな目が、とても印象深く、そんな彼女に俺は何処か憧れに似た感情を抱いていた。



やはり彼女が自殺なんてする訳ないだろう。雨も酷かった事だし、足を滑らせたって事だろうか?
それだ、きっとそうに決まっている。
無理矢理な答えだと頭では理解していた。それでも受け入れられるかどうかは心の問題だ。

ーー花壇がクッションになったのね,,

ーーでももう少し処置が遅かったら,,,

ーー大丈夫よ、部屋に戻りなさい。


ありがとう。と微笑んだ看護師の言葉を思い返しながらとりあえず生きていてくれた事に安心したのか、ぷつり糸が切れた操り人形のように深い眠りへと落ちていった。


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