テキストサイズ

MITO

第2章 家政婦修行

「あっ、言ったなボンサン。わからねえぞ、食ったら三ツ星シェフも涙を流すかもしれねえぞ」


「あぁ、食材に哀れみを感じて号泣するだろう」


 ボンサンは、割り箸を割ると、茶色い玉子焼きにぶっ刺した。


「うわぁ……これ、自分が玉子だったってことを捨てられてるよ……」


 そして、一口分に切り分け口に運ぶ。


 口に広がる食塩と、苦味が加わったジャリジャリ感が、天にも昇るほどのストレスを生み出す。


 どこにも玉子だった面影は、見つからない。


「か……しょっぺ……血圧上がるって……」


 チラリと隣を見る。


 恍惚な表情を浮かべ、まるで食べてしまうことがもったいないように、箸を進めるジャガーの姿。


 ボンサンは心の中で「命」を意識しはじめた。


「おい、ボンサン、ボンサン、おにぎり! おにぎり食え!!」


「海苔をグルグルに巻いて、爆弾みたいにしてるじゃねえか……火つけたら、爆発しないだろうな」


「さすがにしないよ。まあ、食ってみろ」


 ボンサンは心で、般若心経を唱えながら、家族に別れを告げ、デヴィッドが握ったおにぎりを口に入れた。



ストーリーメニュー

TOPTOPへ