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月の降る夜に

第1章 その出会いは日常の崩壊

兵士達が粗方敵をのさせたところで火を放つよう指示した。

伸びている相手は"回収"することも。

二つの天幕が完全に炎に包まれる頃には兵士達は自陣に戻ってきた。

それを見届けてから俺は燃えていない最後の一つの天幕の方へ歩を向けた。

勿論、煙を吸わないように顔の覆いはそのままで。

着いた陣営には可笑しなものがいた。

ひらひらとした格好で不釣り合いに無骨な剣を片手で持ち、吐きそうに蒼白な顔をしているのにそれを良しとしない女。

兵士達が回収していないということはこの女はあの一番大きな大将のいるであろう天幕にいたというわけだ。

さしずめ慰み者ということか。

天幕を見やれば灯が消えているようだった。

……もしやあの少女がこの小隊の大将だったりするのか?

女が?

着飾ることと宝石の数ぐらいにしか興味のない"女"という存在が?

見れば少女はガクガクと足が震えているにもかかわらず歩き出そうとしていた。

……もしかしたらあの少女は俺の知っている女とは違うのかも知れない。

面白い。

当初の予定では、大将は殺すつもりだったが取りやめだ。

生け捕りにしよう。


気配を殺して天幕の陰から少女の後ろへ回る。

白い首筋めがけて手刀を振り下ろした。

確かな手応え。

少女はゆっくりと崩れ落ちた。

「暇つぶしぐらいには役に立ってもらうぞ」

少女の耳には届いていないことなどわかりきっていた。

■□◆□■

あれ、ここは。

ふかふかの寝台から、見慣れた天井でここ久しく見ていないものが見えた。

でも記憶の最後にあるものより幾分か新しいようだ。

「リンユェさま、おめざめですか?」

幼い花繚(ファーリャオ)の声。

ああ、これは夢なんだ。
懐かしい、子供の頃の。

「弟宮さまがいらしておられます」

難しい言い回しを使って得意げな花繚(ファーリャオ)、とても可愛らしい。

との向こうから弟の声がする。

寝台から降りて身支度した。


戸から出ると、いつも遊んでいる直ぐ下の弟の他に一番末の弟がいた。

小さくてぷくぷくしていてかなり可愛い。

「あねうえ、はじめまして。末のシンユェンです」

「星苑(シンユェン)が一人になっていたので連れてきました。今日は一緒に遊んでもよいですか?」

そんなことまで私に訊いてどうする。

「もちろんよ。三人で遊びましょう」

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